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東京高等裁判所 昭和57年(行ス)22号 決定 1982年10月31日

抗告人(被申立人) 埼玉県朝霞警察署長

相手方(申立人) 小沢遼子

主文

原判決を取り消す。

相手方の本件執行停止申請を却下する。

本件申請費用及び抗告費用は相手方の負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨は別紙(一)、その理由は別紙(二)のとおりである。

二  一件記録によると、抗告人が相手方のした本件道路許可に付した条件のうち原決定主文掲記の条件(以下「本件条件」という。)により、相手方の企図する本件集団示威行進(以下「本件行進」という。)の円滑な進行に若干の支障を来たすであろうことが推察されないではないが、本件行進にあたり、相手方が本件執行停止申立書において必要と主張するラウンド・クルーザー車、機材者及び救急車両としての一般車両を配置することができないことになつたからといつて、本件行進の規模、経路等に照らし、そのことから直ちに本件行進の目的が達成されないことになるものとは、にわかに認めがたい。

他方、一件記録によれば、本件行進が予定されている行進経路は交通量の多い一般道路であつて、本件行進は、観閲式関係のために出入する歩行者、車両等のほか、他の集団示威行進と競合することが明らかであり、本件条件の効力を停止し、無制限に車両の参加を許すことになれば、本件行進が交通に及ぼす影響は多大であることが推認され、本件条件を付することは、道路交通法七七条二、三項に違反するものとはいえず、むしろそのような条件を付することが道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要であることが認められる。

以上を勘案すれば、相手方において回復困難な損害を避けるため本件条件の効力の停止を求める緊急の必要があることについての疎明がないというに帰する。

三  そうすると、相手方の本件執行停止申請は、その余の点について検討するまでもなく、これを却下すべきであり、右と判断を異にする原決定は失当であるからこれを取り消し、右申請を却下することとし、手続費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 寺澤光子 川上正俊 河本誠之)

別紙(一) 即時抗告申立書

申立の趣旨

一 原決定を取消す。

一 本件申立を却下する。

一 本件即時抗告に対する決定があるまで原決定の執行を停止する。

一 申立費用は原審及び抗告審とも被抗告人の負担とする。

申立の理由

抗告人の主張及び疎明は、原審において提出したもののほか、当審で補充するとおりであるが、原決定は事実を誤認し、法律の解釈を誤つたものといわざるを得ず、到底承服することができないので、本申立に及ぶ次第である。

なお、当審における抗告人の主張疎明の補充は、直ちに提出する予定である。

別紙(二)

一 総論

原審決定を精読すると申立ての理由で述べたとおり、原審決定は事実を誤認し、法律の解釈を誤つたものといわざるを得ず、その詳細については後述するが主張の要点は次のとおりである。

(一) 事実誤認について

原審決定では、本件の争点はデモ行進の指揮の具体的方法にあるとしているが、真の争点は、原審申立人が意図している多数の車両をデモ行進に参加させて交通上の危険な状態を現出せんとするところにあるものであつて、単に指揮方法云々に止るものではない。

さらに、五〇〇人で三〇〇メートルに及ぶというデモ形態も原審申立人の主張をそのまま受入れたものである。

また、昭和五六年の同種デモ行進に際して、現地警察官がランドクルーザーのデモに付随した走行を認めたごとく、認定しているが、事実は現地警察官の警告、制止を振り切つて強引に発進したものである。

加えて、原審決定は原審申立人が申請時にランドクルーザーの他、二台の乗用車を走行させたいと申請したのみであるのに、これを制限することは適法ではないと認定しているが、原審申立人の申請時の申立ては、車両二〇台を走行させたいというものであつて、事実誤認も甚だしい。

ちなみに、原審決定では「原審被申立人が右乗用車二台を認めない理由について述べる点は多数の自動車のデモ参加を拒否する理由とはなり得ても……」と認定している事実からみても明らかである。

以上のとおり、原審決定は随所において事実を誤認しており、到底承服できないものである。

(二) 法律の解釈の誤りについて

原審決定は、本件認定の根拠として、「道路の通行に付き現在かつ明白な危険が認められない」として原審被申立人の処分を違法視しているが、道路における明白な危険は抽象的危険をもつて足りるとするのが判例の認めるところであり、原審申立人集団の過去の実績からみて原審決定に従うならば、道路交通に及ぼす危険は明白であると言わざるを得ない。

また、「デモ行進中における犯罪の虞れ」は、道路交通法第七七条の許可に関して考慮すべき事由に該当しない旨認定しているが、デモに併進して右側通行したり、蛇行し、さらには急発進、急後退する等の道交法違反行為が道路における危険行為に当らないとするのは極めて失当である。

以上のとおり、原審決定は法律解釈に重大な誤りが存するものである。

二 本件の争点について

原審決定は「被申立人との重要な差違はデモ行進の指揮の具体的方法にある」としている。

しかし、相手方が意図している真意は多数の車両を集団行進に付随走行させ交通を混乱させることにあるのである。

つまり原審申立人は本年一〇月二六日本件集団行進の申請のため、朝霞警察署に来署した際、原審被申立人がデモの付随車両について問い正したところ、原審申立人は、

宣伝カー二台、ランドクルーザー、資機車、救急車など二〇台を付随する

旨申立てているところである。

原審決定を検討するに、ランドクルーザーを使用して、デモ集団全体を指揮統制させることを意図しているとしているが、原審申立人の前述のような言動からして、ランドクルーザー以外の車両二〇台を本件集団行進に付随走行させようとしている意図が明らかである(疎乙第57号証)。してみれば徒歩の前後もしくは中間にこれら約二〇台の車両が付随走行することにより交通上著しい障害を生ずることが明らかであり、まして相手方はこのような多数の車両を付随走行させる意図は多数の車両を集団行進に付随走行させて交通の混乱を生じさせることにあるのである。

つまり原審申立人はランドクルーザーの指揮統制機能を主張しているところであるが、原審申立人の意図はこのように多数の車両を参加させて交通の安全と円滑を阻害しようとするものにほかならない。

また、原審申立人は走行する車両の屋上で指揮する旨主張しているところであるが、乗車設備のない場所以外に乗車して走行してはならないことは道交法第五五条に規定するとおりである。すなわち道交法第五五条は「車両の運転者は当該車両の乗車のための設備された場所以外の場所に乗車させ又は乗車もしくは積載のために設備された以外の場所に積載して車両を運転してはならない。……」と規定しているところである。

したがつて当該宣伝カーの屋上に乗車することは条件で禁止するまでもないことである。

三 本件デモの参加予想人員

原審決定は、デモ参加者約五〇〇人、五人の列にして約三〇〇メートルにおよぶことが予想されるとしている。しかし、仮に五〇〇人になつたとしても一梯団一〇〇人とした場合、一梯団の長さは約一五メートル、さらに各梯団の間隔を約五メートルとつたとしてもデモ隊全体の長さは約一〇〇メートルになるところである。してみると約三〇〇メートルにおよぶことが予想されるとした原審決定は事実を誤認したものである。本件集団行進の申請は五〇〇人としているが、原審申立人が過去主催した自衛隊観閲式反対の集団行進には、東京実行委・叛軍行動委と共闘した昭和五四年度まではともかくとして申請団体つまり「ニユーウエイヴ八〇」独自で実施した昭和五五年度は届出人員五〇〇名のところを一二〇名、昭和五六年度は届出人員三〇〇名のところを一三三名が参加しているのみである。本年も前記東京実行委らは原審申立人と共闘せず独自に集団行進を計画しているところから、原審申立人と共闘しないことが予想されるところである。したがつて本件申請にかかわる集団行進の参加人員も前年にちなんで一二〇名ないし多くても一五〇名程度であることが明らかである。原審申立人はこのような事実を知りながらあえて五〇〇名という届出をなしてきているものである。

四 指揮統制について

本件許可条件の場合に、宣伝カーは表現の自由とのかねあいにおいて適切な車両と認め、容認したものであるが、原審決定のごとく、ランドクルーザーを使用しなければ指揮統制できない性質のものではない。

そもそもランドクルーザーとは、車高の高い総輪駆動の車両であつて、通常は、工事現場等、凸凹道路などで使用しているものである。

してみると、ランドクルーザーに乗らなければデモを指揮統制できないとする原審決定は、事実認定を誤認したものに他ならない。

つまり本件許可条件に付したごとき宣伝カーをもつてすれば指揮統制する機能はもちろんのこと、表現の効果もいささかも損なわないものであることが明らかである。

さらに付言すれば相手方申請にかかる集団行進に参加する団体の中に極左暴力集団である第四インター等が毎年参加し、各参加団体には、それぞれ指揮者がつき独自にジグザグ停滞等の行進をしてきているところである。まして原審申立人は、指揮統制機能を強調するものの、これらの違法行為を黙認するだけでなく、かえつて停滞、蛇行進等を扇動しているところである。

このように原審申立人は、過去の集団行進で明らかなように、交通秩序を混乱させるような指揮こそすれ交通秩序を確保する為の注意を喚起するような指揮統制したためしがない。

原審決定がそのまま容認された場合、前述のとおり無制限の車両が徒走行進間に付随走行することが懸念されるところである。特に原審申立人が集団行進を計画している日は、自衛隊の国家的行事である観閲式が開催され、集団行進の経路は、一般観客等でいちじるしい交通が混雑を生じているのが過去の例でもある。

このような交通上の特殊事情がある、しかも道路幅員が六・〇メートルから一三メートルという狭い道路を無制限の車両が本件集団行進に付随走行したとしたら尚一層の交通混雑を助長させることが明らかである。

してみれば原審決定が回復困難な損害をさける為に緊急の必要性があるとしたことは、事実認定の誤証にあることは明白である。

五 過去のデモ行進の状況

決定書二の(一)によると原審申立人は、本件許可申請にあたりデモ行進の指揮、方法を述べた旨の記載があるが、原審申立人が一〇月二六日本件許可申請の際に、原審被申立人が「昨年のように貨物自動車の荷台にバンドを乗せてデモ行進することは、交通上の安全確保の面から許可することはできないので、宣伝カーは前後各一台にとどめてもらいたい」旨、行政指導すると相手方は、「そんなことは警察の方針であつて私達には関係ない」「宣伝カーは二〇台持つて来る」「他にランドクルーザー一台、資材運搬車、救急車等二〇台位になりますよ」と申立ているものである(疎乙第57号証)。

原審申立人の過去に行なつたデモ状況をみると、団体の性格から違法行為を繰り反し、交通秩序を混乱させてきている団体であり、自動車特に、ロングボデイーのトラツクなどを使用して、交通上の危険を惹起しているところから、被申立人は、原審申立人の申請時の言動にもあるとおり、集団行進に車を多数使用する意図があると認め、そのような状態になつた場合、交通上の危険を考慮し、車両台数を制限したものである。

原審申立人の集団行進に、昭和五五年までは車両台数制限等の許可条件を付さなかつたが、相手方の集団行進は年を追うごとにエスカレートし、行進中道路交通法に違反して、交通上の混乱を巻き起こし、使用する自動車により、交通規制にあたる警察官の規制の妨害をもするようになり、昭和五五年には、普通貨物自動車(ロングボデイー)をデモの先頭部に付け、道路において停滞、併進あるいは急発進、急後退を繰り返し、警察官の警告を無視し、警察部隊に衝突させ、負傷をさせる事案を発生するに至つた。

そのため原審被申立人は、昭和五五年の観閲式反対デモのため、相手方が申請した集団行進に際しては、集団行進に必要な宣伝カーのみ使用を認め、必要な条件を付して許可したところである。

これに対し相手方は、その条件に反して普通貨物自動車をデモ行進に参加させ、デモ先頭部に付けて出発しようとし、警察の再三、再四の警告、制止を受け、これに対し相手方は、宣伝カーの屋根に乗りデモ隊員を指揮してその場に座り込みをさせる等違法行為を繰り返し、約一時間三〇分の長時間にわたり普通貨物自動車の使用を強調していた。

デモ出発後も原審申立人は、許可条件に認められていないランドクルーザーを警察の警告、制止を無視して強引にデモ先頭に付け行進に移つた。

行進中においても原審申立人は、デモ隊の指揮、指導する立場にありながら、デモ隊の違法行為をあおる等ことさら交通の混乱を招き特に、朝霞一中前道路において、対向してきたデモ集団「主婦の会」と対面するや、ランドクルーザーの上からデモ隊を指揮し、デモ隊全員を道路上に座り込ませ、約三八分間の長時間にわたり違法行為を行わせ交通を混乱させた。

原審申立人のこれまでのデモ指揮の状況をみるに、正常なデモ行進のための指揮でなく、あえて交通を混乱させるためデモ隊をあおつているのが実情である。

原審申立人は、本件集団行進において宣伝カー以外にランドクルーザーを使用しなければ指揮統制できないごとく主張するが、その真意は申請時の言動にもあるごとく、デモ行進に多数の車両を混在させることにあるのであり、過去の申請団体の違法行為をみても原審申立人が平穏に集団行進を行なつたためしはなく、今回の集団行進においてもその例外ではなく、交通の秩序を混乱させるおそれは十分にうかがえるところであり、それに多数の車両の混在を認めたならば、車両によつて昭和五五年の場合のごとく、交通の混乱を招き、警察官による交通整理の妨害をも招来し、いちじるしい交通上の危険の発生する蓋然性はきわめて高いと言わざるを得ない。

六 道交法違反は許可に関して考慮すべき理由にあたる。

決定によれば「デモ行進中における犯罪のおそれを強調するが、その理由は道交法第七七条の許可に関して考慮すべき理由に該当しない」としている。

しかし、申請団体は今までの車両の付随を容認したデモ行進においては、警察署長が付した許可条件に従がわず、併進による右側通行、あるいは蛇行、急発進、急後退等を敢行しており、道交法に違反する犯罪を犯しているものである。

道路上における座り込み等を繰り返し行つていることは明らかであり、従がつてこのことは道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため、必要な条件であり、本決定はその見地からみて失当であるといわざるを得ない(疎乙第四九号証)。

七 宣伝カー二台に制限した理由

デモ集団の前後に各一台の宣伝カーを走行させることとした理由は、道路における危険を防止し、その他交通の安全を確保するためのものである。そもそもデモ行進に車両を多数混在させることは、当日の特殊事情に伴う一般参観車両により、付近一帯の交通が混雑し加えてこの観閲式に反対するデモ六団体及び右翼団体の観閲式歓迎車両パレード七団体が極めて近接した時間帯の中で実施される特殊状況に加えて当該申請団体は、過去に実施された集会デモに際し、警察署長の付した許可条件に従がわず、フランスデモ、ジグザグ行進、渦巻行進等を繰り返し、付近一帯の交通を完全に麻痺させ、交通上の危険を生じせしめているものである。

原審決定によれば「行政上、この措置が望ましいとの程度となり得ても許可しないとする程強い理由とみることはできない。」としているが、当該申請団体の性格上、あるいは過去の事例からみても行政指導に従うということは期待できず、整然とデモが行われるという可能性はなく、一般交通に犠牲を強いる結果となり、こうしたことから道路における交通の安全と円滑を図る目的から本件条件により宣伝カーを二台としたことは妥当であると言わざるを得ない。

八 参加を意図した車両は二〇台である。

本決定によれば「デモ参加者の健康保持のため、医療器具を積み、また、病人、老人や幼児の休息のため、最後部に二台程度の乗用車を走行させたいということは、道路の通行につき現在の、かつ、明白な危険が認められないとしているが、これは事実誤認も甚しいものである。

本件申請団体は、申請時において、「宣伝カー二台のほか、ランドクルーザー、資材運搬車二〇台を進行させるがその中でトラツクにチヤガールを乗せる等……」と申し立てている(疎乙第五七号証)。

このように、申請人は乗用車二台ではなく、トラツク、ランドクルーザー等二〇台をデモ行進に付随して進行させることにより、交通の混乱を図ることを意図していることは明らかであり、一般交通の危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため本件宣伝カー二台の条件を付したことは必要最小限度のものである。

九 多数の車両参加を拒否する理由

前記で記述したとおり、本件申請団体は、二台程度に限られるものではなく、多数の車両をデモに付随させて進行させることは明らかである。

したがつて、原審決定で「多数の自動車のデモ参加を拒否する理由となりえても二台程度に限られるものであれば制限することは適法ではない」としているが、これは明らかに事実誤認である。

本件申請団体は、多数の車両特に、トラツク等を進行させ道路における危険を生じさせることを意図していることは過去の事例で明らかであり、現在かつ明白な危険があるといわざるをえない。

原審決定においても多数の車両をデモ参加の拒否する理由になりえるとしているとおり本件許可条件もその点にあるものである。

一〇 「現在かつ明白な危険がなければ、条件を付すことは許されない」との判示について

道路交通の危険が、現在かつ明白に存在するものでない場合、条件を付することは、許されない旨判示するが、集団による行進は、その行為自体において、社会通念上一般交通に著しい影響を及ぼすことが予測されるとみるのが相当であつてかかる集団による行進である以上それが現実に一般交通に著しい影響を及ぼすことは明らかであり、右許可に際し、付される条件も現実に一般交通に著しい影響を及ぼすものに限定すべき理由がないことになる。

このことについては、

昭・四九・ 一・二五

大阪高裁

昭・四九・ 四・二三

大阪高裁

昭・四九・一一・二七

福岡高裁

等の判例によつても明らかである(疎乙第66号証)。

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